【業務委託契約で注意すべきこと】なぜコメディカルには業務委託契約の仕事がないのか?

最近、アルバイトをしている技師さんで契約形態を業務委託に切り替えたいと考える方が増えてきています。

業務委託で仕事をする場合は労働基準法の労働者には該当しませんが、会社側との従属関係が認められる実態があると労働者とみなされ、業務委託契約が結べなくなってしまう可能性があります。

安易に業務委託契約に切り替えると、後でトラブルになる可能性があるので注意が必要です。

この記事では、「業務委託契約に切り替える際の注意点」や「業務委託の仕事が少ない理由」について綴ります。
個人的な見解ですので、あくまでご参考までに、、、

< 目次 >

1.「雇用契約」と「業務委託契約」の違い
・雇用契約とは
・業務委託契約とは

2.業務委託契約に切り替えるときの注意点

・労働基準法と社会保険が適用されない

・損害が発生した場合の負担が大きい

・「形式上だけ」の契約にしない

3.「偽装請負」に注意

・偽装請負とは

・偽装請負と認められたときの罰則

4.雇用関係とみなされるポイント

・「使用従属性」に関する判断基準

①「指揮監督下の労働」であること
「報酬の労務対償性」があること

②「労働者性」の判断を補強する要素

5.業務委託契約と認められるためには?

6.業務委託契約の仕事が少ない理由

・医療法の定義によるもの

・診療放射線技師法の定義によるもの

7.まとめ

1.「雇用契約」と「業務委託契約」の違い

雇用契約と業務委託契約は、雇用されているとみなされるかどうか(「労働者」か否か)で法律上区別されています。
労働者が結ぶ契約が雇用契約、労働者以外の人が結ぶ契約を業務委託契約といいます。
ここで重要なのは契約形式ではなく、「業務の実態」に重きが置かれています。

雇用契約とは

「雇用契約」とは、働くことと引き換えに報酬を与えることを約束する契約です。
雇用契約で働く人は労働者となり、労働基準法が適用され社会保険・労災保険・雇用保険の加入対象となります。
「労働者」とは、労働基準法第9条において職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定義されています。

労働基準法で定められる労働者には、以下のものがあります。
・正社員
・契約社員
・派遣社員
・アルバイト
・パート
・日雇い労働者 など

業務委託契約とは

「業務委託契約」とは、一方が特定の仕事を処理し、「処理された仕事」と引き換えに相手方が報酬を支払うことを約束する契約です。
雇用契約のような使用者と労働者という関係でなく、独立した事業者同士の関係になるので、労働基準法や労災保険などの法律の保護を受けられません。

労働基準法において労働者に含まれないものには、以下のものがあります。
・役員報酬を得ている役員
・事業主
・事業主の親族

言わずもがな、会社経営者は事業主なので労働者ではありません。
役員は委託契約の関係なので労働者にはなりませんが、賃金をもらっている役員は労災の対象となります。
事業主の親族は、役員として仕事をしている場合は労働者にはなりませんが、他の従業員と同じ労働条件で働いている場合は労働者としてみなされてしまう可能性があります。

2.業務委託契約に切り替えるときの注意点

雇用契約(アルバイトなど)から業務委託契約に切り替える際に、気を付けなければいけないことが3つあります。

  • 労働基準法と社会保険が適用されない
  • 損害が発生した場合の負担が大きい
  • 「形式上だけ」の契約にしない

労働基準法と社会保険が適用されない

個人事業主になると労働基準法および社会保険・労災保険・雇用保険が適用されなくなります。
上記に伴い次のようなことが起こります。

・仕事で病気やケガをしても労災保険が使えない
・仕事が無くなっても雇用保険の給付がもらえない
・プライベートで病気やケガをしても傷病手当金がない

特に社会保険の適用については、家族を扶養に入れている場合は十分に検討する必要があります。

損害が発生した場合の負担が大きい

自分のミスで取引先・受診者および患者に損害を与えてしまったとき、雇用契約の場合は労働者だけでなく、雇用している会社側にも賠償責任が発生します。
使用者責任のある会社側が損害を賠償してくれるので、労働者は守られていることになります。

しかし、業務委託契約の場合、自分で全額賠償しなければなりません。
賠償額が少なければよいですが、金額があまりにも大きいと賠償しきれない可能性があります。
場合によっては損害保険への加入を検討しても良いかもしれません。

「形式上だけ」の契約にしない

契約上は業務委託でも働き方が労働者の場合、業務委託契約と認められない可能性があります。
これは労働者か否かを判断する際、労働基準法に則り「形式」ではなく「実態」を重視して判断されるからです。
その場合、「偽装請負」になってしまう可能性があるので注意が必要です。

また、労働者には労働基準法が適用されるため、会社には「時間外手当の支払い義務」「労働者を安全に就業させる安全配慮義務」など様々な義務が発生しますが、一部の会社はこれらの義務を免れるために形式上は業務委託契約にしてこき使おうとする場合があります。
小癪な会社に搾取されないように知識をつける必要があります。

3.偽装請負に注意

上記の通り、契約は業務委託でも働き方が労働者の場合は「偽装請負」とみなされる可能性があります。

私の周りでも放射線技師ではないのですが、仕事内容は一般的な事務職なのに契約上は業務委託の方がいます。
自分で理解して納得した上で契約をしているならば働き方の一つとして選択できるのですが、偽装請負と認識せずに契約している人も多いように感じます。

偽装請負とは

「偽装請負」とは、形式上は業務委託契約を結びながら実態としては労働者として働いていることを指します。

問題になるのは、本来会社側が半分負担するべき社会保険料の支払いや労働基準法の規制から逃れることを目的として業務委託契約を結ぶことです。

つまり、会社側にとって有利、個人事業主側が不利になってしまうということです。

偽装請負において気を付けるべきことが3つあります。

  • 十分な賃金が支払われない
  • 労働法が適用されない
  • 契約解除や賠償責任のリスクがある

十分な賃金が支払われない

仕事をするにあたり複数の企業が関わっている場合、中間マージンが多く取られ十分な賃金が支払われない可能性もあります。
会社側の言い値ではなく、自分で報酬の交渉をする必要があります。
搾取されないように気を付けたいです。

労働法が適用されない

業務委託契約は、業務に対して報酬が発生する契約なので個人事業主と会社の間で雇用関係が成立せず、労働法が適用されません。
そのため福利厚生全般(健康保険や厚生年金など諸々の手当)を受けられないことになります。
労働時間は報酬に影響しないため残業手当もありません。

このように責任の所在が不明確になるので、労働者の雇用条件や労働環境が守られなくなります。

契約解除や賠償責任のリスクがある

業務委託契約は個人事業主側が仕事を完成するまでの間であれば、会社側から一方的な契約解除ができ、損害が発生すれば賠償請求も可能です。

雇用契約が成立している場合は、合理的理由がない限り会社側の勝手な都合で契約解除はできません。(労働契約法17条)

損害が発生しても労働者に悪意や重大な過失がなければ「使用者責任」となり、会社側が賠償責任を負います。(民法715条)

このように様々なリスクがあることを十分に理解して契約する必要があります。

偽装請負と判断された場合

私が調べた限りでは、個人事業主に対する罰則はあまり確認できませんでした。
事後に雇用関係と判断された場合、会社側が負う可能性のある責任として以下のものがあります。
  • 解雇等無効による賃金支払義務
  • 所定労働時間を基にした残業代や休日出勤の割増賃金の支払義務
  • 労働基準監督署の指導や労働基準法違反による罰則の適用
  • 過去2年分の保険料支払義務
  • 未払い賃金の請求や安全配慮義務違反を指摘

 

とある弁護士サイトでは、偽装請負について下記の記載がありました。
問題になるのは会社側が意図的に労働者を搾取することなので、自分で納得して契約しているならば良いということなのかもしれません。

「利益を得る委託者側は負担を少なくし、働く側は、社会保障を受けにくいという負担を負いますので、やめた方がいいといえます。」
「社会保険への加入ができないなどのデメリットをカバーするほどの報酬が払われるのなら、業務委託でもいいと思います。」

4.雇用関係とみなされるポイント

形式上業務委託契約を結んでいたとしても労働者と判定されてしまうのは、雇用関係を判断する際に「実態」を優先して判断されるためです。

この判断材料として、働いている人が「労働者」性を有しているか否かが重要になります。

労働基準法において労働者とは、「使用者から使用をされ、労務に対して賃金を支払われる者」と定義され、これを「使用従属性」と言います。

使用従属性が認められるかどうかは契約の形式に関わらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から総合的に判断されます。
その要素として以下のものがあります。

<雇用関係を判断する要素 >

 1.使用性:指揮監督下の労働であること
・仕事依頼の諾否の自由の有無
・業務遂行上の指揮監督の有無
・勤務時間場所の拘束性の有無
・代替性の有無
   賃金性:報酬と労務の対償性があること

 

 2.「労働者性」の判断を補強する要素
・事業者性の有無

・専属性の程度
・その他

使用性|指揮監督下の労働であること

使用性とは、簡単にいうと、使用者である会社の指揮命令を受けて働いていることです。
使用性の判断要素としては以下のものがあります。

仕事の依頼に対する諾否の自由があるか

仕事の受ける受けないを自由に決めることができる場合、会社の指揮命令を受けていないものとして使用性は弱くなります。これは重要な要素です。

業務を行う際の指揮命令の有無や強さ

業務を行う上で仕事の進め方などについて会社から具体的な指示を受けている場合、使用性は強くなります。
しかし、業務委託でも会社側が個人事業主に対して発注内容についての指示は行われるので、指示をすることが認められていないわけではなく、「通常使用者が行う程度の指示」に留まっているのか、「従業員に行うような詳細な業務指示」なのか指揮命令の強さがポイントになります。

勤務場所および勤務時間の拘束があるか

勤務時間や場所が指定され、拘束される形態であれば会社の指揮命令を受けているとみなされ、使用性が強くなります。
他の従業員と同様、定時に会社へ出勤させて仕事をするように強制する場合はこれに当てはまります。

労務提供の代替性があるか

代替性とは、本人に代わって他者が仕事をすること(再委託)や、補助者を使って仕事をすることが認められているなど、他人が代替できるような仕事をしている場合をいいます。

代替性のない(専門性の高い)仕事をしている場合、会社からの指揮監督が働いているとみなされ、使用性が強いといえます。
この要素は使用性を判断する際、補助的な要素と位置づけられています。

賃金性|報酬と労務の対償性があること

賃金性については労務との対応関係が重要です。
絶対的な基準ではないですが、報酬が仕事の成果ではなく、時給や日給などの提供した労働の長さに応じて報酬が決まる場合は雇用関係と近くなります。

具体的には、報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合が当てはまります。
・一定額の支払いが保証され、それが定期的に支払われている
欠勤するとそれ相応の報酬が控除される
残業をした際に通常の報酬とは別の手当が支給される

源泉徴収されていたり、保険料が徴収されていると報酬の労務対償性を補強する要素となり得ますが、当事者において比較的容易に操作可能であるため、その経緯や他の従業員の取扱いが考慮されます。

業務委託契約でも源泉徴収を行う職種があるので、自分の職種が該当するのか調べた方が良いです。
自分が該当しない場合でも、取引先によっては源泉徴収を契約条件に出されることがあります。
📣関連記事はこちら【個人事業主も源泉徴収がある?】

「労働者性」の判断を補強する要素

基本的に労働基準法9条のとおり、労働者性は使用性及び賃金制を主に判断されます。
しかし、事案によっては上記2つの要素だけでは判断が難しい場合もあります。
その場合は以下のような補強要素も考慮して労働者性が判断されます。

事業者性の有無

事業者とは、会社などに属さずリスクを取って自ら事業を行っている個人のことを指します。
仕事で使用する機械や器具をどちらが負担するか、作業に比較して報酬が高いかなど、独⽴して事業を営む⾃営業者としての性質を有するか(自分でリスクを負っているか)どうかがポイントになります。

・機械、器具の負担
基本的に労働者は生産手段を持っていませんが、傭車運転手等は自己所有の機械・器具を利用して労務を提供する場合があります。
自己所有する機械・器具が高価であれば、事業者としての性格が強くなり労働者性が弱くなります。

・報酬の額
報酬額が業務内容が同じ他の労働者に比べて高額な場合、事業者に対する代金と認められやすく、労働者性が弱くなります。

専属性の程度

専属性の有無は労働者性の判断を補強するものとして、以下の3つがあげられます。

・兼業禁止など、他社の業務に従事することが制約される
・時間的余裕がなく、他者の業務に従事することが困難
・報酬に固定給部分があり、報酬に生活保障的な要素が強い

その他の要素

その他に労働者性を補強する要素として、以下のものがあります。

・採用、委託等の選考過程が労働者の採用の場合とほぼ同じ
・労働保険の適用対象としている
・委託先の就業規則や服務規律の適用がある
・退職金制度、福利厚生を適用している

5.業務委託契約と認められるためには?

フリーランス技師の業務内容を上記の要素に当てはめると、完全に偽装請負ではないが、グレーゾーンなのではないかと思います。

雇用関係とみなされる可能性が強い部分と弱い部分をまとめると下表のようになります。

放射線技師に当てはめて考えると

巡回健診の仕事を業務委託契約で受ける場合について考えてみます。

業務委託契約で仕事をする場合、取引先が勤怠管理や作業場所の指定を求めることはできないのですが、健康診断を行う場所や時間は決まっています。
そのため雇用関係が強くなってしまうかもしれませんが、契約に基づいて取引先から時間等の管理を受けることもあるので明確に禁止されているわけではないようです。
仕事の依頼の拒否権があり、専門性が高い点に関しては雇用関係が弱いです。

報酬については業務委託契約の場合、業務を行うまたは完成させることで支払われます。
取引先が業務時間や休日の指定をして労務管理をしていると雇用とみなされる可能性がありますが、労務管理されているわけではないですし、業務時間だけでなく結果(撮影人数やモダリティー)にも関係していることを考慮すると雇用関係は弱いと判断しても良いのかもしれません。
契約を結ぶ際、報酬額に交渉の余地がある点も雇用関係を弱める要素になると思います。

その他雇用関係を補強する要素として、X線装置などの機械類は依頼元が準備したものを使用している点です。
必要な道具を自分で準備・負担しているわけではないので、機器の負担に関する事業者性は低いと判断されてしまう可能性があります。
しかし、仕事がキャンセルになった場合の補償は無いという点では事業者性があると判断できます。

専属性については、複数の健診会社と業務委託契約を結び仕事を受けている場合は雇用関係が弱いですが、専属技師として一社のみと仕事を行っている場合は雇用関係とみなされる可能性が高いです。

※不明点等は労働基準監督署に問い合わせてみても良いと思います。

6.業務委託契約の仕事が少ない理由

偽装請負になる可能性以外で、業務委託契約が少ない理由として考えられる点は2つあります。
  • 医療法の定義によるもの
  • 診療放射線技師法の定義によるもの

医療法の定義によるもの

医療法では「医療機関に管理者を置かなければならない」と定められており、管理者の責務について以下の規定が置かれていることが理由の一つとして考えられます。

【医療法15条1項】
病院又は診療所の管理者は、この法律に定める管理者の責務を果たせるよう、当該病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督し、その他当該病院又は診療所の管理及び運営につき、必要な注意をしなければならない。

「勤務する医師~その他の従業者」の文言だけをみると、業務委託を完全に排除しているとまでは言えない気はしますが、医療法において医療の質を担保するために管理者に重大な責任を課していることからすると、医療機関において業務委託契約は認められにくいのではないかと考えられます。
仮に医療機関と業務委託の形態で仕事をする場合、管理者のガバナンスから独立することを意味してしまうので。

医療において業務委託契約が認められているのは、院内清掃や滅菌消毒、食事の提供などの業務に限定されていて、医療従事者個人に対する業務委託を認める法律はないようです。
現在の医療制度では、法律的に業務委託契約と認められるには難しいのかもしれません。

【厚生労働省】病院、診療所等の業務委託について

診療放射線技師法の定義によるもの

放射線技師は法律で以下のように定義されており、「医師(監理者)の指示の下」でなければ撮影業務を行うことができません。
その点から考えると、監理者に強く従属している=労働者とみなされ、業務委託契約の仕事が少ないのかもしれません。

【診療放射線技師法 第2条】
「診療放射線技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、医師又は歯科医師の指示の下に、放射線の人体に対する照射(撮影を含み、照射機器を人体内に挿入して行うものを除く。以下同じ。)をすることを業とする者をいう。
【診療放射線技師法 第26条】
診療放射線技師は、医師又は歯科医師の具体的な指示を受けなければ、放射線の人体に対する照射をしてはならない。

まとめ

放射線技師が業務委託契約で仕事をする場合、アルバイト(労働者)と業務内容はほぼ同じなので偽装請負とみなされてしまうかもしれません。

しかし、この法律は働く人が会社に搾取されたり、無理やり業務委託契約を結ばされないように働く側を守る目的でつくられたものです。

リスク以上の報酬が得られ、自分が納得して契約しているのであれば、形式上の業務委託契約を結ぶ方法も選択肢の一つとしてあるということです。
良いか悪いかは別として、、、。

想定外のことが起きたときに「こんなはずじゃなかった、、」とならないよう、十分に理解した上で契約を結びたいところです。

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