先日、巡回健診の仕事で乳癌治療中の方が撮影に来ました。
乳癌治療中の場合は、通院している病院やクリニックで経過観察を行うことが望ましいのですが、稀に健康診断でフォローしようとする方がいます。
今回は、住民健診や職場の健康診断(対策型検診)における、乳癌治療中のマンモグラフィ撮影の対応について、私なりに調べたことをまとめました。
※この記事は、日本乳癌学会へ質問して得られた回答をもとにしています。
★結論
今回の事例
1.前提知識
2.Q&A
・乳癌で片側乳房全摘した方は健康診断でマンモグラフィを撮影して良いのか?
・乳癌術後の場合、どのタイミングで医療機関から健康診断での撮影に切り替わるのか?
・乳癌術後の治療中の場合、フォロー目的で健康診断のマンモグラフィを利用して良いのか?
・健康診断をセカンドオピニオンとして利用して良いのか?
まとめ
結論 乳癌治療中の撮影はNG!
受診者の中で乳癌治療中の方がいた場合、理由を丁寧に説明して、撮影をお断りするのが正しい対応です。
しかし、対策型検診における乳癌治療中のマンモグラフィ撮影について、一般的な正しい回答はありません。
個々の患者・受診者の置かれた状況に応じて、個別に対応する必要があります。
今回の事例
受診者の方は以下の目的があり、住民健診のマンモグラフィ撮影を希望されました。
● セカンドオピニオンとして健康診断を受診したい
● 医療機関は予約が取りにくいため、健康診断で撮影したい
● 医療機関でのフォローは、撮影と結果説明の2回行かないといけなくて大変だけど、健康診断は1回行けば撮影と診断ができるから
1.前提知識
がん検診の種類
がん検診には、市区町村や企業が提供する「対策型検診」と、個人で受ける「任意型検診」があります。
● 対策型検診とは
住民健診(市区町村が税金を使用して行う住民サービス)や企業の健康診断などが含まれます。
無症状であることが原則で、有症状者や診療の対象となる人は含まれません。
公的な予防対策なので費用は市区町村・企業が負担し、無料または少額の自己負担で受けられます。
● 任意型検診とは
人間ドックや検診センター、医療機関で行われる総合健診などが含まれます。
個人が自分の死亡リスクを下げるために受けるもので、医療機関や検診機関が任意に提供する医療サービスです。
無症状であることが基本条件です。
費用は医療機関によって異なり、全額自己負担の場合が多いです。
乳がん術後の経過観察
乳がん治療は病変を取り除いた後も、転移や再発予防のための治療と経過観察が必要です。
化学療法であれば3~6ヶ月ほど、ホルモン療法であれば5~10年かけて行います。
乳がん術後の経過観察は、3年までは3ヶ月ごと、5年までは半年ごと、10年までは1年ごとの定期検査を行うことが一般的です。
ホルモン療法は、閉経前と閉経後で使用する薬剤が異なります。
閉経前は、抗エストロゲン薬のタモキシフェン(商品名:ノルバデックス,タスオミン)が第一選択薬です。
閉経後は、主にアロマターゼ阻害剤のアナストロゾール、レトロゾール(商品名:フェマーラ)、エキセメスタンの内服が必要になります。
アロマターゼ阻害薬は、閉経後にもわずかにつくられているエストロゲンをほぼゼロに近いレベルまで抑えることができます。
転移・再発乳がんの閉経後のホルモン療法としては、第一選択として考えられることが多いです。
これらの薬剤は5~10年といった長期間の内服が必要なります。
2.疑問に思ったこと
今回は、以下の4つの疑問についてまとめました。
- 乳癌で片側乳房全摘した方は健康診断でマンモグラフィを撮影して良いのか?
- 乳癌術後の場合、どのタイミングで医療機関から健康診断での撮影に切り替わるのか?
- 乳癌術後で治療中の場合、フォロー目的で健康診断のマンモグラフィを利用して良いのか?
- 健康診断をセカンドオピニオンとして利用して良いのか?
1.健側(手術を行っていない)乳房の乳がん検診
乳癌で片側乳房全摘した方は健康診断でマンモグラフィを撮影して良いの?
健側の乳房に対しての対策型乳がん検診は行われている
対策型乳がん検診の対象は、市区町村ごとに異なります。
しかし、住民健診において片側の乳房を切除した住民に対して、健側(手術をしていない側)の乳房に対する対策型乳がん検診を対象外としている地域はほぼありません。
つまり、そこまで細かく対象者を規定や制限がされていないのが現状です。
そのため、健側の乳房に対しての対策型乳がん検診は現実に行われています。
2.切り替えタイミングについて
乳癌術後は、どのタイミングで病院から健康診断でのフォローに切り替わるの?
術後から約10年が目安
乳癌の治療が終了して、病院やクリニックの外来へ行く必要がなくなると、乳がん検診の対象になります。
再発などがなく、順調に治療が進めば、術後から約10年が目安になっています。
3.乳癌の経過観察について
乳癌術後で治療中の場合、フォロー目的で健康診断のマンモグラフィを利用して良いの?
乳癌治療中は、乳がん検診の対象ではない
乳癌治療中の患者の健側乳房に対しての検査の考え方は、検診(スクリーニング)ではなく、サーベイランス(乳癌既発症者に対する異時性乳癌や再発、転移を検査すること)となります。
そのため、乳癌治療中の方は乳がん検診の対象ではありません。
検診(スクリーニング)とは、無症状の人に検査を実施してがんを早期発見し、早期治療を図ることでその疾患の予後を改善させる(がん死亡率を減少させる)ことを指します。
一方、サーベイランスとは、がんのリスクが高いと推定される臓器に対して、がんの早期発見を目的に行うことを指します。
また、住民健診は税金を使用して行われているので、乳癌治療中の方はマンモグラフィを受けられない場合が多いです。
医療機関で医療を受けるべき人が無料で検診を受けていては、税金がいくらあっても足りません。
そのため、治療中の場合、上記を丁寧に説明し受診者に納得していただく必要があります。
4.セカンドオピニオンと健康診断について
健康診断をセカンドオピニオンとして利用して良いの?
乳がん検診を受診することはできない
セカンドオピニオン目的で乳がん検診を受診することはできません。
乳がん検診の目的は「対象集団からがんの疑いのある人を見つけ出し、早期発見・早期治療につなげて全体の死亡率減少を目的とする」ため、目的の範囲外となります。
セカンドオピニオンは医療行為にあたるので、病院やクリニックでセカンドオピニオン外来として医師へ受診する必要があります。
もしも受診者の中でセカンドオピニオンを目的に乳がん検診を受診する方がいた場合、上記を丁寧に説明して撮影をお断りするのが正しい対応です。
まとめ
通院している病院と違う場所で撮影すると、過去画像と比較することができません。
特に、巡回健診の場合、過去画像と紐づけられていないことが多いので、当日撮影した画像のみで所見が判断されてしまいます。
乳癌治療中の受診者にメリットがないので、理由を丁寧に説明して、撮影をお断りしましょう。