【後編】なぜ医療業界には業務委託契約の仕事が少ないのか?その理由と注意点

【前編】では、業務委託契約の基本的な知識から、契約を結ぶときの注意点についてつづりました。

今回は、業務委託と認められるためのポイントと、コメディカル(医療従事者)の分野で業務委託契約が少ない理由について、私なりに調べたことをまとめました。

結論

医療系フリーランスの業務委託契約は、雇用契約とみなされる要素があります。

業務委託契約と認められるためには、仕事の依頼を自由に断れたり、複数の会社と業務委託契約を結んでいるなど、事業者性を示す必要があります。

自分の働き方をよく理解し、リスクに備えることが大切です。

4.どんなときに雇用契約とみなされる?

業務委託契約でも、次の場合は「雇用契約」とみなされることがあります。

雇用契約とみなされる可能性が高い例

・会社の指示で仕事をしている:仕事のやり方や時間配分を会社が細かく指示している
・働く時間で報酬が決まる  :仕事の成果ではなく、働いた時間で報酬が支払われる
・会社に専属で働いている  :他の会社と契約せずに、その会社だけで働いている

——— 労働者性の判断基準 ———

「労働者性」とは、労働基準法上の労働者として保護されるかどうかを判断するための基準です。

以下の3つの要素から総合的に判断されます。

  • 使用性(指揮監督を受けているか)
    • 仕事の指示を自由に拒否できるか
    • 仕事の進め方について、会社から具体的な指示を受けているか
    • 勤務時間や場所が指定され、拘束されているか
    • 自分以外の人に仕事を任せられるか(代替性)
  • 賃金性(労働の対価として報酬が支払われているか)
    • 報酬が時給や日給など、労働時間に応じて支払われているか
    • 一定額の支払いが保証され、定期的に支払われているか
    • 欠勤した場合、報酬が減額されるか
    • 残業代が支払われるか
    • 源泉徴収や社会保険料の徴収の有無も判断材料になる
  • 事業者性(独立した事業者として仕事をしているか)
    • 仕事で使用する道具や機械を自分で用意しているか
    • 報酬が他の労働者と比べて高額か
    • 兼業の禁止など、他の仕事に従事することが制限されているか
    • その他、採用過程、就業規則の適用、福利厚生の有無なども判断材料になる

5.業務委託契約と認められるためには?

業務委託契約と認められるためには、実態が雇用契約とみなされないように注意する必要があります。

巡回健診の仕事を業務委託契約で受ける場合について考えてみます。

💡 業務委託契約と認められるためのポイント

・仕事の依頼を自由に断れる → 会社の指揮命令を受けていないことを示せる
・専門性が高く、代替性が低い → 会社からの指揮監督が及ばないことを示せる
・報酬額に交渉の余地がある → 賃金性が低い
・複数の会社と業務委託契約を結び、仕事を受ける → 使用性が低い
・仕事がキャンセルになった場合の補償がない → 事業者としてリスクを負っている

💡 雇用関係が強い可能性のある要素

・勤務場所や時間が指定されている
・仕事に必要な道具や機械を自分で用意・負担していないこと
・一社のみと専属契約を結んでいる

このように、雇用関係とみなされる可能性がある部分と、そうでない部分があります。

 

しかし、健診場所や時間が決まっていても、契約に基づく管理であれば問題ありません。

業務時間だけでなく、撮影人数やモダリティーなど、成果にも報酬が関係している場合や、複数の健診会社と契約している場合は、雇用とはみなされにくいです。

会社側が道具や機器を用意する場合、事業者性は低くなる可能性がありますが、仕事のキャンセル補償がない点は事業者性を示すことができます。

6.医療業界で業務委託契約の仕事が少ない理由

業務委託契約の仕事が少ないのは、偽装請負の可能性以外に、以下の法律による定義が関係しています。

・医療法と診療放射線技師法の定義により、業務委託契約は制約が多い
・医療の質を担保するため、管理者の責任や医師の指示が重視される

これらの法律により、医療機関に所属して業務を行うことが一般的であり、業務委託契約という働き方が広がりにくいと考えられます。

医療法の定義による制約

医療法では、医療機関に管理者を置くことが義務付けられており、管理者は従業者を監督する責任を負います。

このため、医療機関が業務委託契約を結ぶことは、管理者の責任範囲から独立した働き方を意味し、医療の質を担保する上で難しいと考えられます。

医療機関における業務委託は、清掃や滅菌などの周辺業務に限定され、医療従事者個人との業務委託は法律で認められていません。

※参照:厚生労働省:病院、診療所等の業務委託について「医療法15条1項」

診療放射線技師法の定義による制約

診療放射線技師は、医師または歯科医師の指示の下で放射線照射を行うことが法律で定められています。

この「指示の下」という文言は、放射線技師が医師に強く従属していることを示唆し、労働者性が高いとみなされる可能性があります。

そのため、診療放射線技師が独立して放射線照射を行うことはできません。

※参照:厚生労働省「診療放射線技師法 第2条および第26条」

まとめ

医療業界では、業務委託契約はまだ一般的ではありません。

医療法などの法律により、業務委託契約に制約があるためです。

しかし、近年では、医療業界でも働き方の多様化が進んでおり、業務委託契約という働き方も少しずつ広がっています。

医療系のフリーランスで業務委託契約を検討する際は、法律や規制をよく確認しましょう。

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